建築家の腹

d0105153_18354389.jpg いまいちブレイクできず尻すぼみ状態にあるピーター・グリーナウェイの作品の中でも地味で目立たない作品。
 グリーナウェイ特有のケレン味ある演出を抑え、分かりやすいドラマとして撮ったことがその原因。しかし、グリーナウェイ作品であることを意識せず観るとすんなり楽しめる。

 建築家のクラックライトは敬愛する建築家ブーレの展覧会監修のために、妻と共にローマを訪れる。ところが彼は到着して間もなく激しい腹痛におそわれるようになる。その頃妻はローマで知り合った若い男と浮気を重ね、妊娠する。謎の腹痛と嫉妬で精神的混乱に陥ったクラックライトは次第に死に取り憑かれていく…。

 「死と誕生」という二元的なテーマを際だたせるため、左右対称の風景を多用したり、クラックライトの出っ張った腹と妻のスリムな腹を対比させたり、彼らしいクドい演出があるが、それはご愛敬レベル。それよりもラストに行き着くまでのユルい時間を楽しむのが正解。
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# by ichio1970 | 2007-06-19 18:36 | 1980

エイリアン4

d0105153_1716090.jpg 大方のエイリアンファンの間で「3」と「4」はこっぴどくコキ下ろされているが、今改めて観直すと意外におもしろい。(とはいえ、エイリアンの恐ろしさを感じさせる得体の知れない不気味さと、生理的嫌悪感が発散されているのは1作目だけ)
 ジャン・ピエール・ジュネによるこの4作目は、2作目から失われていた生理的嫌悪感を取り戻そうとしている点でも好感が持てる。オープニングのヌメヌメ映像を観れば、ジュネがこの点を意識してつくっていたことが分かる。
 基本的なストーリーは過去3作とほぼ同じだが、内容はジュネが「エイリアン」というネタを使ったパスティッシュといった趣。だから怖くないばかりか、笑いを誘うシーンがところどころに盛り込まれている。リブリーがクローンで、エイリアンの母親になってしまう設定などは、ゲラゲラ笑いながらつくったのではないかと思うくらい。
 しかし作品自体はしっかりつくられており、SFアクションとして十分楽しめる。また、ダリウス・コンジのカメラが素晴らしく、お決まりのシーンにも深みを与えている。(プラス ウィノナ・ライダーがとことんきれい!)
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# by ichio1970 | 2007-05-25 17:16 | 1990

エレファント

d0105153_16433167.jpg 『グッド・ウィル・ハンティング』『小説家を見つけたら』で路線を変えて‘やっぱりアンタも…’とガッカリさせられ、『サイコ』のリメイクで完全に終わったと思っていたガス・ヴァン・サントが見事に復活した入魂の一作。

 舞台はアメリカのとある高校の、ある一日。ここに通う生徒たちはいつもと同じように登校する。そんな中、アレックスとその友人のエリックはネットで購入したショットガンを持って学校へと向かう。

 劇的なストーリー展開や演出を敢えて排し、事件が起こるまでの僅かな時間を淡々と描くことで、現代社会の日常に潜む狂気をあぶり出している。
 そして技術的にも、事件が起こるまでの生徒それぞれの時間を重ね合わせる構成や、カメラを視線化した擬似ドキュメンタリータッチなどが、この作品が90年代以降のものであることをはっきり と示している。
 演出と共にハリス・サヴィデスのカメラも光る。
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# by ichio1970 | 2007-05-18 16:47 | 2000

御法度

d0105153_214248.jpg 大島渚の目下最新作。世間的には評価が低いようだが、なかなかどうして面白い。全編に漂う閉鎖感と登場人物間の緊迫感がグイグイと物語の世界へ引き込む。
 到底妖しい美男子には見えない(怪しい少年には見える)松田龍平を筆頭に、ほとんどの役者は滑舌が悪く棒読みで何を言っているのか聞き取れなくて最初はイライラするが、不思議と途中から愛すべきキャラクターに変身する。
 浅野忠信は他の作品では見たことのない男の色気を発散しているし、武田真治の沖田総司も新鮮。最後のたどたどしい長台詞のシーンなど、かわいく思えてくる。
 また、冷え切った京都の夜に青白い情念の炎が漂っているような雰囲気は、近年量産されているJホラーよりも怪談的なオーラを生み出していて怖い。意図せずにこんな映画を撮る大島監督はやはり凄い。(この作品は新撰組を描いたもので、所謂ホラー映画ではありません。念のため)
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# by ichio1970 | 2007-05-15 21:42 | 1990

スカーフェイス

d0105153_15541993.jpg デ・パルマ&ストーン&パチーノ トリオがつくり上げたギャング映画の傑作。
 『ゴッドファーザー』がギャングの世界を格調高く描いたA級品なのに比べ、こっちは徹頭徹尾ドロくさいB級路線。
 主人公も、『ゴッドファーザー』の見習い時代からクールだったマイケルに対して、トニー・モンタナはいつまでもチンピラテイストが抜けないカッペ野郎。とても同じ役者が感じているとは思えない。

 キューバから成功を夢見てアメリカにやって来たトニー・モンタナは、持ち前のガッツと行動力でメキメキ頭角を現す。調子づいた彼はボスを差し置き、コカインの元締めと直接取引をはじめる。しかし、自らもコカイン漬けとなり、次第に破滅の道へと進んでいく。

 (裏)サクセスストーリーをマッハスピードで見せる展開は普通ならスカスカに感じるはずなのに、そうなっていないのは登場人物それぞれのキャラが立っているから。だから、バイオレンスシーンもただのコケおどしにならずに凄みがある。
 ただ、ジョルジオ・モロダーの音楽とミシェル・ファイファーのダンスはショボくて、こっちまで気恥ずかしくなってしまう。
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# by ichio1970 | 2007-05-01 15:54 | 1980

ほら男爵の冒険

d0105153_1464974.jpg チェコアニメ界の大御所カレル・ゼマンの美しく摩訶不思議なおとぎ話。といってもお子様が見るような代物ではなく、ブッ飛んだ頭の中でつくられた濃厚なストレンジムービー。
 全編アニメと実写の合成映像で、これが舌を巻く素晴らしさ。色・構図・世界観、すべてにズバ抜けた美的センスがあり、観る者のイマジネーションをかき立たせる。
 
 この映画はおよそ50年前の作品ながら、昨今のCGなんて足下にも及ばない迫力と美しさ。リアルで情報量が多いだけじゃ人を魅了することはできないということを改めて知らされる。

 しかしながらストーリーはあってないような散らかりよう。はっきり言って出鱈目。でもこのことが逆にカレル・ゼマンの映像美を引き立てているようないないような…。テリー・ギリアムが惚れ込んだのも分かる。(彼は本作をベースにして、これまた狂った怪作『バロン』をつくってしまう)
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# by ichio1970 | 2007-04-17 14:07 | 1960

ゾンビ

d0105153_19292171.jpg ゾンビ映画は数あれど、公開されて30年経つ今もキング・オブ・ゾンビムービーの座に輝きつづける名実共にバケモン映画。

 この作品はメディアなどで、消費社会の強烈な批判だと評価されているが、そんなことは二の次。確かにロメロ監督もそういう意識は持っていただろうが、もっと感覚的に撮っていたはず。だから観る方も余計なことは考えず、感覚的に観るのが正解。
 小難しい理屈は、多分インタビューなどで難しそうなことを言ったら受けが良く、繰り返し話していたら、どんどん広まってしまったのだろう。そのせいでロメロのゾンビ最新作『ランド・オブ・ザ・デッド』は、社会的なメッセージを入れなければという思いが強すぎて、すごく構図的なつくりになってしまっている。

 さて、この作品を特別なものにしているのは、生きのびた人間がショッピングモールに立てこもるという設定と、モールの間取りが観てるこっちにも分かる演出の巧みさだろう。
 誰もいない巨大なモールで暮らすというのは誰もが一度は夢想すること。だから、悲惨な状況を描いているにも関わらず、何だかワクワクする。閉鎖された空間ですべてが満たされ、ダラダラと過ごす時間の何と魅力的なこと!
 そして、モールのつくりが把握できるため、ゾンビや人間の動き一つひとつに意味と緊張感が出てくる。この面白味はリメイク版『ドーン・オブ・ザ・デッド』にはなかった。

 今観るとかなりユルいところもあるが、オリジナル ゾンビのヌタヌタ感をまったく色あせていない。
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# by ichio1970 | 2007-04-04 19:29 | 1970

セブン

d0105153_2242461.jpg 『羊たちの沈黙』と共にサイコ・スリラーというジャンルをつくってしまった問題作。
 カイル・クーパーが手掛ける病的なオープニングを見るだけで、この映画がタダものではないことが伝わってくる。そして、そのインパクトはラストまで少しも衰えない。いやはや、見終わってこんなにグッタリする映画はそうはない。

 舞台はアメリカのとある地方都市。殺人課の新米刑事ミルズは就任してすぐに猟奇殺人事件を担当することになる。相棒は定年間近のベテラン刑事サマセット。彼らをあざ笑うかのように同一犯人による殺人は繰り返され、それがキリストの7つの大罪(大食・貪欲・怠惰・高慢・色欲・羨望・怒り)に基づいて行われていることが明らかになる。しかし犯人ジョン・ドゥは殺人計画を完成させる前になぜか自首してくる。果たして彼の思惑とは?!

 下手をすればC級映画になりそうな話を独特の雰囲気と緊迫感あふれる作品に仕上げたのは、間違いなくデヴィッド・フィンチャーの演出とダリウス・コンジのカメラ。
 脚本のオカルティックな要素とフィンチャーのテーマである‘信仰の闇’がうまく合わさったといえるだろう。
 また、コンジの描く、薄暗く、いつも雨が降っている都市像は『ブレードランナー』 meets 『エンゼル・ハート』といった趣。
『セブン』が公開されてもう10年以上経つが、この作品を超えるサイコ・スリラーは思い当たらない。
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# by ichio1970 | 2007-03-29 22:42 | 1990

髪結いの亭主

d0105153_1727459.jpg パトリス・ルコントが描く、オトコの理想郷。
 
 理容師のオッパイで性に目覚めた少年アントワーヌはそのまま中年男になり、髪結いの亭主になるという夢を叶える。しかも彼は一切働かず、店で美人の妻マチルドを見つめるだけ。しかもしかも客の目を盗んでS○Xまでしてしまう。マチルドもそんなグータラ亭主をとことん愛し、幸せな日々を過ごす。しかし、愛するあまり二人の生活は意外な結末をむかえることに。

 「かほり立つ、官能」、このキャッチコピーが『髪結いの亭主』の魅力をすべてを言い表している。ちょっとした視線、店内に響くハサミの音、髪を洗う仕草、そしてアントワーヌの変テコな踊りすべてから、蒸せ返るエロい匂いが漂ってくる。ジャン・コクトーは性器に触れずに射精することが出来たそうだが、この作品にも圧縮されたエロのイメージがすり込まれている。

 舞台は回想シーンを除いてほとんどお店のみ。この小さな空間がアントワーヌの頭の中(夢)であり、彼はいつまでもそこに住み続ける。
 こんなに奇妙で、エロくて、甘く、切ない映画はそうそうない。
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# by ichio1970 | 2007-03-17 17:28 | 1990

犬神家の一族

d0105153_1919299.jpg ビザールな世界を語るうえで、やはり『犬神家の一族』は欠かせない。
 この作品には猟奇的殺人事件という設定を借りて、血の恐怖、スモールタウンの恐怖、森の恐怖など、さまざまな恐怖が盛り込まれている。そして、これらをおどろおどろしく描くのではなく、あくまで美しく、要所要所にスケキヨ、V字死体、岸田今日子など、こけおどし的な要素を織り込むことで唯一無二の世界をつくりあげている。
 また、戦後の混乱や親族間のドロドロした争い、屋敷の暗く冷え込んだ空気感と爽やかな那須の風景との対比がこの上ない効果をあげている。
 役者陣も主演の金田一役の石坂浩二から猿蔵役の寺田稔まで登場時間に関わらずそれぞれが素晴らしいインパクトを残している。

 物語としては、真犯人が自殺をするというとことん後味の悪い結果であるにも関わらず、見終わったあと不思議と青春映画を見たような爽やかな気分になるところがこの作品を凄いところ。
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# by ichio1970 | 2007-03-09 19:19 | 1970